
AIを活用した広告クリエイティブの新常識──先端技術を武器に現場から挑むZETTAI WORKSの動画広告
博報堂DYグループの社内ベンチャープログラム「Ventures of Creativity(VoC)」から誕生し、AIを活用したアニメーションから実写まで多彩なクリエイティブを手がける会社「ZETTAI WORKS」。
現状のクリエイティブ制作における課題、ZETTAI WORKSの提供するソリューションの価値、そして今後の展望について、代表者と経験豊富な博報堂出身のクリエイターにその可能性について話を伺いました。
佐藤 拳
株式会社ZETTAI WORKS 代表取締役
小野 洋平
株式会社ZETTAI WORKS 代表取締役
山口 尚久
株式会社Hakuhodo DY ONE Executive Creative Director
博報堂DYグループから生まれたAIを駆使するクリエイティブ集団
── まずはデジタル広告制作における現状の課題感と会社設立の背景を教えてください。
- 佐藤
- きっかけは、「どんな条件でも、動画広告をちゃんと届けたい」という思いでした。デジタル広告の現場にいると、いい企画ほど制作負荷やスケジュールの都合で、いつのまにか選ばれなくなってしまうんです。特にアニメ表現は、制作時間がかかるという理由で外されるケースが多いのですが、僕はそれを“どうしたらできるか”で考えたかった。その答えのひとつがAIでした。技術だけを語るのではなく、「AIがあるからこの表現が選ばれた」と言えるようにする。僕らが向き合っているのは、単なる省力化ではなく、“表現を通す”ための方法なのです。小野と一緒に、それを成り立たせる座組をつくり、今のZETTAI WORKSがあります。
- 小野
- 本事業の可能性を強く意識したのは、2023年の初頭でした。当時は、AIを活用したクリエイティブを実際の広告に導入しているケースが非常に少ない時期です。そのような中、先端技術への理解が深かったある大手クライアントとの企画会議で、AIを活用して生成したアニメーションや実写合成のビジュアルを提示したところ、予想以上の反応を得て、実際に屋外広告(OOH)として展開するまでに至ったのです。公開後の反響や広告効果も明確な成果があり、それは、AIの活用は単なる話題づくりや実験にとどまらず、クリエイティブの課題を解決するための実用的な手法になりうるという、ひとつの証明でもありました。そこから、事業としての成立性を見据え、佐藤や各所の方々と検討を重ね、現在のZETTAI WORKSの体制へと発展していきました。
── ZETTAI WORKSではどのようなソリューションを提供していますか?
- 佐藤
- アニメーションや実写をはじめとしたAIを活用した広告クリエイティブやコンテンツ領域における動画制作を進めています。
従来の手法では実現が難しかった企画をAIで形にすることで、デジタル広告ではあまり見られない、例えば映画のワンシーンのような映像表現や、スタジオで撮影したようなビジュアル表現を用いた映像の制作が可能になっています。
- 小野
- 当初はAIによる映像表現を前提に、ある特定のビジュアルスタイルを軸にソリューションを組み立てていました。しかしプロジェクトを重ねるうちに、クライアントごとの具体的なニーズが見えるようになり、実写風からアニメーション調まで、さまざまなスタイルに対応できる独自の制作フローを構築しました。
表現の方向性によってアプローチの手順や設計方針が変わるものの、どのプロジェクトでも共通しているのは1枚のビジュアルから始まり、数十回に及ぶレタッチを重ねながら、理想のイメージに近づけていくプロセスです。
キャラクター表現についても、顔の輪郭、髪型、衣装などの細部に至るまで一貫性を持たせ、物語の中で自然な存在として成立することを重視しています。最終的には、広告として十分な説得力を持つ映像になるよう仕上げています。
私たちは広告の企画や制作に長く携わってきた経験から、実写でもアニメでも、完成した映像の姿を最後まで手放さずに制作できることが強みです。限られた時間やコストの中でも「表現したいもの」を妥協せず実現できるよう、技術と手作業を最適なバランスで組み合わせています。
AIで制作したクリエイティブを実用化している点が強みに
──これまで数多くの案件を手掛けてこられた山口さんはどうご覧になっていますか?
- 山口
- 外部のディレクターから「クライアント案件でAIを活用し、実際にアウトプットまで出しているのは初めて見た」との声をいただきました。私たちが取り組むAI活用は、実験的な段階を超え、実務において成果を上げるフェーズに入っています。我々にとっては当たり前のように感じていたものの、外から見るとかなり先進的な取り組みだと言えるのではないでしょうか。AIをテストケースではなく、実際の業務に組み込み、しっかりとクオリティを高めながら実用化している点がZETTAI WORKSの強みになっていると思っています。
例えばCGを作る場合、これまでのワークフローでは、企画を受け取ってCG制作を別の会社に依頼することになります。その際に、制作会社としっかりコミュニケーションを取らないと、どう実現するかが難しくなってしまいます。でも、こちら側が企画の意図を理解していて、コンセプトを映像として表現することに慣れていれば、コンセプトの把握が圧倒的に早いわけなんですね。
また3秒~4秒といった短いカットごとに異なる人物を登場させることは、AIが比較的得意な分野でした。しかし、同じストーリーの中でカットをまたいでも同一のキャラクターを一貫して登場させることは、これまでなかなか実現が難しかったんです。ZETTAI WORKSはその手法にいち早く取り組んで実現させているのが特徴的で、より自然で統一感のあるクリエイティブを生み出すことにつながっていると思います。
- 佐藤
- デジタル広告は「2ヶ月後に納品したい」「場合によっては1ヶ月で仕上げたい」といったケースも少なくありませんが、納期の短さから、結果的に表現に制約が生まれてしまうこともあります。そのような中、AIにより実現できる新しい表現は、高い広告効果を発揮することから、新たな市場を生み出せないかと考えていたのです。
現在は、進化の早いAIの最新技術をいち早く取り入れ、広告として昇華する取り組みを模索しています。
クライアントも“驚き”のクオリティ。AIによる映像制作の可能性と課題
── アウトプットに対しては、どのような反響をいただいていますか?
- 小野
- 広告成果の面では、クライアントから高評価をいただいています。来店促進やリード獲得などの目的で、明確にコンバージョンが改善した事例が複数あり、手応えを感じています。直近では、企業が主催した映像チャレンジにおいて、制作したクリエイティブが最優秀作品に選ばれたこともあり、第三者からの評価という意味でも実績が少しずつ積み重なり始めています。
一方で課題も見えてきています。例えば、同じキャラクターを複数のシーンで継続して登場させるような映像制作では、AIだけで一貫性を保つことが難しい部分があります。そのため、AIによる生成と人間による修正を組み合わせたり、制作工程そのものを見直したりと、様々な工夫を重ねています。現在も技術面と運用面の両方で改善を続け、より自然で品質の高いクリエイティブを提供できるよう進めています。
- 佐藤
- LoRAという小規模な学習モデルを活用することで、キャラクターの同一性を保ちながら多様なカットを生成することが可能になります。ただし、広告の分野では短尺のコンテンツが中心となるため、LoRAを作る手間をかけるべきか、人の手で修正する方が効率的か、あるいはプロンプトの工夫で対応するかといった判断が求められます。
制作プロセスがより効率化されれば、LoRAを活用することで、同一の人物やキャラクターを複数のさまざまなクリエイティブに登場させることが可能になるため、シリーズ広告や、広告を通じたIPの運用なども実現できるのではないかと考えています。
── 著作権の問題や懸念点はどのようにクリアしていますか?
- 小野
- 著作権の観点では、基本的に生成された画像をそのまま使うことはしません。静止画の段階で、画像編集ツールを用いてビジュアル同士の印象や構図の整合性を調整しながら細かく手を入れています。そのうえで、社内外のメンバーによる確認、さらに法務の観点からのレビューを通して、問題がないことを確認した上で納品するようにしています。生成AIを活用するうえでは、「似ていないこと」だけでなく、そもそも「不要な誤解や偶然の一致が起きないよう、構造的に設計されているか」も重要だと考えています。
アニメーションから実写まで対応。成果に直結するAI活用とは
── ZETTAI WORKSが提供できるソリューションの他にはない強みは何ですか?
- 佐藤
- アニメーションから実写まで対応できる点は大きな強みです。動画化するのに適切なAIツールを使い分けることが重要になってきます。
また、動画化のプロセスにおいてもリアルで自然な動きを得意とするものと、ダイナミックで誇張された動きを得意とするものがあり、これらを適切に組み合わせて作り出すクリエイティブ表現も独自性につながっています。
- 小野
- 私たちは十数年にわたり、情報流通の最前線で、「どうすれば広告成果を出せるか」という課題と向き合ってきました。その経験をもとに、今はAIを新たな手段として取り入れ、制作フローや表現手法自体を根本から見直しています。結果として、アイデアが実現するまでにかかる時間や作業負荷が大きく変わり、以前なら諦めざるを得なかった企画も実施可能になっています。
- 山口
- また、AIは初期のイメージ共有をスピーディーにできるのが大きなメリットです。通常、従来はプランナーが企画コンテを作成し、その後、監督が演出コンテを新たに用意するという流れでした。世界観を設計する際には膨大な資料を集め、演出家と打ち合わせを重ねる必要がありますが、AIなら素早く映像化が可能なため、早い段階で方向性を判断できるのが魅力です。
クリエイターにとっても、AIを活用すれば従来のように多くの資料を集める手間を省くことができ、最初の段階で大量のビジュアル案が出せるので、効率的に、省力して進められるのが大きな利点だと言えるでしょう。
- 小野
- 実際、これまで対応が難しかった短納期案件にも応えることができ、納期を大幅に短縮した例もあります。ただ、私たちの最も重要な強みは、単に技術や制作スピードを売りにすることではなく、クライアントやクリエイターが本当に実現したかったアイデアを、現場のリアルな制約を乗り越えて実際に形にできるところにあります。
- 山口
- 加えて、博報堂DYグループでサービス開発を行う際にPoCをやることが多いのですが、これまで世の中にないサービスの未来の使われ方を動画でプレゼンする「エビデシング」という方法が流行っていました。私もアニメーションでそのようなプロジェクトを担当した経験がありますが、その時はかなり時間と手間がかかったのを覚えています。でもこれからはAIを使えば、短時間でそのような動画でのプロトタイピングができるので、非常に大きなチャンスがあると感じています。
グループ内のさまざまな営業や部署が、新しい事業開発を進める際に、AIを活用してエビデシングを行うことができれば、プレゼンテーションビデオとしても効果的に活用できると思いますし、有用なツールになるでしょう。
将来は広告領域からコンテンツ領域への進出を目指す
── 最後に今後の展望を教えてください。
- 佐藤
- 広告は基本的に尺が短く、広告とAIは非常に相性が良いと感じています。その一方で、尺が長くなると、AIによる生成の難易度が上がります。現状では、AIで生成可能な動画は10秒程度が多く、その中でも実用できるのは2秒程度のシーンがほとんどです。
そのような中、数十秒の映像を少しずつ拡張していくことは、広告の領域では非常に重要です。ショートコンテンツのような形式で、広告に関する知識を取り入れることで、例えば視聴を継続させるための要素を組み込んでいくことが可能になります。最終的には、そのようなコンテンツ制作を通じて、より効果的な広告体験を提供できると考えています。
- 小野
- 今は広告領域で着実に成果を積み上げ、その知見を活かしてコンテンツ領域へ踏み出したいと私たちは考えています。具体的には短尺コンテンツを足がかりに、段階的により長尺のコンテンツへと挑戦していくことを目指しています。
すでに海外からの問い合わせもいただいており、当社が携わったコンテンツ領域の作品が海外で流通する未来にも実際に手が届く距離感を感じはじめています。
最終的には、クリエイターのアイデアが何か制約によって損なわれることなく、価値として世界に広がっていくための環境を整えていきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。
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株式会社ZETTAI WORKS 代表取締役アニメ制作会社と、ゲーム制作会社を経て2019年にアイレップ(現Hakuhodo DY ONE)に入社。双方の業界知見をもとに、ゲーム、マンガなどエンタメ系のクライアントを中心に担当。コミュニケーションのコンセプト設計から動画広告、SNSキャンペーンまでを幅広く実務として行う。デジタル広告の期間と予算の課題に対してAIによる解決を目的としたクリエイティブ事業を起案し2024年10月に株式会社ZETTAI WORKSを設立。
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株式会社ZETTAI WORKS 代表取締役先端技術とクリエイティブを軸に、国内外のCM等で企画・演出・クリエイティブディレクションを担う。制約で諦められてきた発想を、技術によって実装することをテーマに、次世代型のクリエイティブスタジオのあり方を模索。生成AIを用いた国内最初期のOOH広告や、先端技術を取り入れた映像作品などで成果を残し、国内外の広告賞・企業アワードで複数の実績を持つ。
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株式会社Hakuhodo DY ONE Executive Creative Director博報堂のクリエイティブディレクターとして100社以上の企業を担当した後、2022年にアイレップ(現Hakuhodo DY ONE)に参画。ブランド認知から獲得まで、事業成果にコミットするフルファネルでの統合型クリエイティブを設計、実践している。画像生成AIについても2023年にハロウィン向けのOOH広告を制作するなど、単に効率化だけでない、発想拡張とクリエイティブのクオリティ向上のための使い方を探求中。 受賞歴:カンヌGold、IBA部門最高賞、Ad Star金賞、読広グランプリ、毎広グランプリ、ACCなど、上方漫才大賞審査員